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2019年05月13日

不完全だから人生は面白い

私はあまり小説を読まないのですが、三島由紀夫氏だけは例外で、ほとんどの作品を読んでいます。特に晩年の作品「豊穣の海」四部作は夢中になって読了しました。

 

私が生まれて一歳を迎えた直後に氏は自衛隊市ヶ谷駐屯地で派手な割腹自殺をしました。私は成人してからそのことを気にかけていたのですが、作品全般から滲み出る氏の知性教養からして、私には氏の自殺の動機を理解することが難しいのでした。この本の作者も他界して10年弱が経過しているようですが、若かりし頃に歌舞伎作家としての晩年の三島氏と仕事での親交があったようで、よくある見聞きしただけの推測論よりも核心に迫っていると私は感じました。

 

三島由紀夫氏はある意味潔癖症で、人間の醜さや愚かさを受け入れられなかったのだろうと思います。老いる前の才能溢れるうちに氏の考える美しい死に方を実践したのでしょう。

 

私の強い自殺願望が収まったのはまさに死に損なった近年のことです。脳幹出血によってあらゆる身体的不具合が一生ものとして与えられ、人間の不完全性やマヌケさというものを身をもって体験させられ、完璧主義どころではなくなってしまったのです。寝たきりの植物状態から喋ったり歩いたりできるようになっただけで喜んでいられるのです!(笑)

 

いろんな事で完璧を求めがちだった健康な頃に比べると、今の私は自分にも他人にもあらゆる部分に寛大でいられます。こだわりがほぼなくなってしまったのです。一度は失った視力を用いて読書をしたり熱帯魚観賞をしたり、また同じく失った聴力は完全に復活して音楽の素晴らしさを堪能できています。ただ当分手足は元の様には動かせないので、かつてはできたような楽器を演奏することはまだおあずけです。

 

誰でも自分の不完全性を理由に色々と諦めていることでしょう。でも人間であるからには常に不完全なのです。だからこそ完全をめざして、一生何らかの努力を続けられるのだと思うのです。